脳梗塞は頻度の高い疾患ですが脊髄梗塞は少なく、脊髄自体より発生する病気は脳のように多くはありません。
一方、脳の場合には頭蓋骨の病気で脳障害が出ることは稀であるのに対し、脊髄を取り囲む脊椎、靱帯、椎間板の異常や脊椎のズレなどによる圧迫のために脊髄障害が出ることは高頻度に認められます。
脳神経外科では脊髄内から発生する病気も含め、脊髄が周囲から圧迫され神経症状を生じる病気の治療を行います。
■脊髄内の疾患
1.髄内腫瘍
特異的な症状はありません。何となく足の裏に違和感がある程度のものから、症状が進行すれば四肢の運動障害まで生じます。 脊髄の中から発生する腫瘍には手術的にすべて摘出可能なものと、部分摘出しかできないものがあります。
右図の患者さんでは大きな髄内腫瘍がありましたが、術前の症状は手のしびれと下肢の脱力感程度でした。全摘出後も症状の悪化はなく手のしびれは改善しました。 術前の症状が軽ければ多くの場合に術後症状が長期に悪化することは多くありません。 |
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2.脊髄空洞症
小脳の一部(扁桃)が下垂するために髄液の流れが障害され、脊髄の中に水がたまって空洞を形成する病気。手や脇腹の神経由来の痛み、関節の変形、側彎、手の筋萎縮などを生じやすい。大孔部減圧術という方法で多くの場合に病気の進行は抑えることができます。
【大孔減圧術】
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術前 |
術後 |
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空洞くも膜下腔短絡術 ※症例によっては大孔減圧術では治りにくいことがあり、この場合に空洞くも膜下腔短絡術が必要となることもあります。 |
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■脊髄外の疾患
1.髄外腫瘍
腫瘍は脊髄の外にあり、脊髄は圧迫されることで症状を出します。 腫瘍の摘出により脊髄の圧迫がなくなり、多くの場合には脊髄に新たな傷ができることはなく、症状は改善します。 大部分はゆっくりと発育する腫瘍で症状発現時には、大きな腫瘤を形成しています。 良性脳腫瘍と同様に神経鞘腫や髄膜腫が多く見られます。 |
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2.環軸椎亜脱臼
頭蓋骨と頸椎の移行部で頚の運動の半分程度は行われています。 このため炎症や外傷により良く亜脱臼が生じます。特に小児や高齢者において“ずれ”の起こりやすい部分です。 程度がきついと脊髄を圧迫し手足のしびれや運動障害、睡眠時無呼吸など多彩な症状を生じます。ズレの強い場合には固定術が必要です。 当院ではより確実な固定を行うためナビゲーションシステムを使用しています。
3.頸椎症性脊髄症
脊髄は脳と同様に外部から直接圧迫あれないように骨に囲まれた空間に入っています。 しかし、この骨の空間の中に椎間板ヘルニアが入ってきたり、骨の中にある靱帯が厚くなった場合には逃げ場がないため脊髄が圧迫を受け症状が出ます。
【椎弓形成術】
その圧迫が1カ所でない場合や脊髄の後方からの圧迫が主たる場合に椎弓形成術という手術を行います。
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椎弓を正中で両開きに拡大する |
脊髄の入っている空間 (脊柱管:図の緑色の部分)が拡大する ↓ 脊髄の圧迫は解除される |
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椎間板や靱帯で脊髄が圧迫され、両手の麻痺と歩行障害があった。 MRIでは椎間板や靱帯で脊髄が圧迫され変形。
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椎弓形成で脊髄の圧迫をなくすことにより症状は改善した。 |
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4.前方除圧固定術
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椎間板ヘルニアが前方から脊髄を強く圧迫する時には脊椎前方より椎間板を摘出する。その際に同部分の不安定性を生じないようにするため固定術も行う方法。 痛みが強い場合にはこの方法が有効です。 |
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チタン製のケージで固定した場合には、翌日から離床可能 |
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5.腰部脊柱管狭窄症
歩いたり、立ったりすると次第に足がしびれ、力が入りにくくなり、座って休むとしびれも改善し、力も入りやすくなる状態を繰り返すことを間歇性跛行と言います。 多くは腰の骨の変形や靱帯、椎間板の膨隆により神経が締め付けられた状態であるために生じます。厚くなった靱帯をとる手術にて多くの場合に改善します。 |
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片側部分椎弓切除による減圧術後 |
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